大阪高等裁判所 昭和62年(ネ)2283号 判決 1990年6月26日
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 第一審原告らの当審における予備的請求棄却する。
三 控訴費用はこれを二分し、その一を第一審原告らの、その一を第一審被告の各負担とする。
事実
第一 当事者の申立
一 第一審原告ら
1 原判決中、第一審原告ら敗訴部分を取り消す。
2 第一審被告は第一審原告らに対し、原判決添付別紙物件目録(一)記載の土地(以下本件(一)の土地という)について、原判決添付別紙請求登記目録「原因」欄記載の原因に基づき、同目録「持分」欄記載の持分について所有権移転登記手続をせよ。
3 (当審における予備的請求)
第一審被告は第一審原告らに対し、本件(一)の土地につき、原判決添付別紙請求登記目録「持分」欄記載の持分について、原判決添付別紙物件目録(二)記載の土地(以下本件(二)の土地という)を要役地とする通路や子供の遊び場等として使用することを内容とする地役権設定登記手続をせよ。
4 第一審被告の控訴を棄却する。
5 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。
二 第一審被告
1 原判決中、第一審被告敗訴部分を取消す。
2 第一審原告らは第一審被告に対し、本件(一)の土地を明渡し、かつ、昭和五八年一一月一日から右明渡済に至るまで一か月一〇万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。
3 第一審原告らの控訴を棄却する。
4 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(原判決の訂正)
1 原判決二枚目裏三行目の「土地」の次に「の共有者で、」を挿入し、同七行目の「右区分所有権」を「右持分権」と訂正する。
2 原判決四枚目裏三行目の次に「その余の第一審原告らは各持分権を第一審被告から買い受けた。」を挿入する。
3 原判決五枚目表五行目の「こともあろうに、」から同七行目の「であった」までを削除する。
4 原判決添付別紙請求登記目録記載の内、楠野由里子の欄(原判決三六枚目裏二行目)及び合計欄(同一〇、一一行目)を削除する。
(当審における第一審原告らの主張)反訴抗弁欄記載(原判決九枚目裏五行目から一一枚目表五行目まで)のとおり第一審原告らは地役権を有するところ、その内容は通路や子供の遊び場等として本件(一)の土地のために本件(二)の土地を使用することであるので、本件(一)の土地につき、原判決添付別紙請求登記目録「持分」欄記載の持分について、右地役権の設定登記手続を求める。
(当審における第一審被告の主張)
反訴抗弁に対する認否欄記載(原判決一一枚目表六行目から同裏末行まで)のとおり第一審原告らは地役権を有するものではないから、その設定登記手続の請求権もない。
第三 証拠関係<省略>
理由
一 原判決理由一及び二の説示(一二枚目表四行目から一八枚目裏九行目まで)をここに引用する(ただし、原判決一二枚目表一一行目の「本件マンション」の次に「の区分所有者であり、本件(二)の土地」を挿入し、同裏一行目の「区分所有」を削除し、同裏三行目の次に行を変えて「そして、弁論の全趣旨によると本訴請求原因一2の事実が求められる。」を挿入し、同一五枚目裏一、六行目の各「前顕」をそれぞれ「前掲」と訂正する。)。
当審における<証拠>を考慮にいれてもなお右引用に係る原判決の認定、判断を左右しえない。
二 本訴予備的請求について検討するに、共有持分の上に地役権を設定することは許されないので、共有持分については地役権設定登記手続を請求することも許されないものと解すべきであるところ、本訴予備的請求の内容をみると、第一審原告らの原判決添付別紙請求目録「持分」欄記載の持分について地役権設定登記手続を求めることは明らかであるから、本訴予備的請求は主張自体失当といわざるをえないので棄却を免れない(仮に第一審原告らの主張を善解して、本件(二)の土地につき地役権設定登記手続をすることを同土地の共有持分権に基づき求めていると解すると、右請求を内容とする訴えは固有必要的共同訴訟であると解すべきであり、弁論の全趣旨によると第一審原告らが本件(二)の土地の全所有者でないものと認められるので、訴訟要件を欠き訴えの却下を免れないことになる。)。
三 続いて、反訴請求について検討する。
本件(一)の土地が第一審被告の所有に属することは前記認定、判断のとおりであり、第一審原告らが本件(一)の土地を占有していることは当事者間に争いがないので、すすんで、反訴抗弁第二項の成否について判断する。
本件全証拠によっても、地役権が明示的に設定されたことを認めることができない。
そこで、地役権が黙示的に設定された旨の主張についてみる。
地役権が黙示的に設定されたと認めるには、平均人の見地からみて当然地役権を設定するであろうと認められる客観的事情がなければならないと解すべきである。
これを本件においてみるに、前記引用の原判決理由欄一、二記載の認定事実、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 本件マンションの区分所有権及びその敷地の持分権は、昭和四九年一月頃から売りに出されたものであるところ、その販売広告には前記認定のとおり本件(一)の土地も本件(二)の土地とともにマンション敷地の中に取り込まれ、一体として利用する形状にあって、マンションの出入のための通路として利用している絵図が掲載されていた。そして、その販売のために作成されたパンフレットにも同一内容の記載ないし掲載があったばかりでなく、第一審被告は区分所有権の買主との間の売買契約に際して、殆どの場合に右のパンフレットを物件説明書として利用した。右販売広告もパンフレットも株式会社松美建設が作成者であるが、同会社は第一審被告の実質上の販売部門といった者であり、右の売買の際の物件説明書として利用は、右のとおり第一審被告自らしたことである。
(2) 第一審被告は、本件区分所有権及びその敷地の持分権の売買に際して、駐車場希望者には特約ガレージを斡旋する旨右パンフレットに記載し、又口頭でその旨述べており、それが現実には本件(一)の土地を利用して実現されたことになる。
(3) 第一審原告らを含む区分所有者らの内、直接第一審被告から買った者は、それぞれ右の広告、パンフレット、セールス・トークに従いその旨信じて本件区分所有権及びその敷地の持分権を買い受け、間接に買った者は前主から説明を受けるか現状を見て買い受けたものと思われる。
(4) 第一審被告は本件マンション入居開始後、前記の広告、パンフレット、セールス・トークのとおり、本件(一)の土地及び本件(二)の土地を本件マンション敷地の塀の中に取り込み、外観上本件マンションの玄関に通じる通路として利用できるような形状にし、そのうえ本件(一)の土地の内、塀側に沿って七台の駐車スペースをとり、これを白線で印し、その手前の丁度右両土地の境界線付近に直線の白線を印した。
しかし、右の白線以外に本件(一)の土地と本件(二)の土地とを区別する外観はない。
(5) 本件(一)の土地上の駐車場は、専ら区分所有者のために利用されてきた。そして、その駐車料は第一審被告において収得していたが、その徴収方法は本件マンションの共益費用等と共に徴収する方法をとっていた。
右駐車場の設置により当初予定されていた通路がそれだけ狭くなるけれども、第一審原告らを含む区分所有者らは右のとおり右駐車場が専ら区分所有者のために利用されてきたことから、駐車場設置に異議を述べることはなかったし、その殆どの者は右駐車料の帰属に関心を持っていなかった。
(6) 本件(一)の土地上の駐車場を利用するに際しては、面積の関係から、本件(二)の土地の前記玄関前部分を車の出入りに使用せざるをえなかったし、その反面第一審原告らを含む区分所有者は実際の駐車に差支えない限度で本件(一)の土地を自由に通行してきたし、そのほか、内輪の駐車場として気軽に子供の遊び場としても利用し、さらには盆踊り、火災予防及び消火器詰替訓練、区民運動会の練習その他町内会の催しものに使用してきた。
以上認定の事実に基づいて考えると、第一審原告らを含む区分所有者らは本件(二)の土地を本件(一)の土地上における第一審被告の駐車場経営のために同土地の便益に供したことになり、その反面、第一審被告は本件(一)の土地を本件(二)の土地の共有者たる第一審原告らを含む区分所有権者らの通行のために同土地の便益に供したことになる。それゆえ、平均人の見地からみて、第一審被告と第一審原告らを含む区分所有権者らとが、本件(一)の土地を本件(二)の土地の共有者の右通行の便益に供するという内容の地役権を、当然設定するであろうと認められる客観的事情が認められるといわなければならない。ただし、第一審被告は本件(一)の土地上に駐車場を経営することができ、かつそのために本件(二)の土地を通行する権利を有することになる。
その他、第一審原告らは地役権の内容たる便益として子供の遊び場等を主張するところ、子供の遊び場といっても、駐車場における遊びは本来危険なものであり通常の常識からみて回避されるべき行為であるので、駐車場の利用と併存して子供の遊び場として利用したことを平均人の見地からみて地役権の便益とみることはできないこと、その他の生活雑用として考えられることは、盆踊り、火災予防及び消火器詰替訓練、区民運動会の練習といったものであるところ、これらは常時継続的になされる行為ではないばかりでなく、これらは場合により本件(二)の土地の玄関南及び西側空地においてなされても不自然ではないことなどが指摘できる。これらの事情を総合して考えると、本件(一)の土地において平均人の見地からみてこれらの便益のために当然地役権を設定するであろうと認められる客観的事情があるとはいえない。そうすると、子供の遊び場等を便益とする地役権の黙示の設定があったことは認められない。それゆえ、反訴抗弁第二項は通路として使用することを内容とする地役権設定に関する限りにおいて理由があり、その余の便益に関しては理由がないことになる。
第一審被告は、本件(一)の土地につき、駐車場と併存する形で認められる右通行を妨げない限度で占有を回復する権利を有するけれども、それは本件反訴におけるように第一審原告らの占有を全面的に排除する方法で請求することを許すものではなく、第一審被告において右の限度で本件(一)の土地に立ち入ることを妨げてはならないという不作為の請求を許す程度のものというべきであり、本件反訴は右の許される請求とは異質のものであるので、一部認容もできないものというべきである。
そうすると、結局において、本件反訴は理由がないことに帰する。
四 原判決理由の括弧内の説示(一九枚目表一〇行目から同裏六行目まで)をここに引用する。
五 以上の理由により、これと同旨の原判決は相当であり、第一審原告ら及び第一審被告の本件各控訴は理由がないのでいずれもこれを棄却することとし、さらに第一審原告らが当審において追加した予備的請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 柳澤千昭 裁判官 東 孝行 裁判官 松本哲泓)